40:トップセールスを賭けた戦い3
志村さんの連帯保証人の申込は無事に済んだ。両親にしても奥さんにしても自宅が担保になっているので、
見てみぬふりはできず、連帯保証人になることに抵抗はまったくなかった。
しかしゴーゴーファイナンスの時に2800万円だった借金が、
たった1年で今度は別のサラ金から3350万円ものお金を借りなければならなくなってしまうこの状況には、
両親も妻も僕の前で言葉にしていわなかったにせよ、不満があることは確かだった。
両親はともに67歳で年金収入が2人であわせて30万円。これは大きな返済原資になりそうだ。
奥さんは専業主婦なので無収入だが、子供が大きくなれば働けなくはないだろうという意味で、
またプレッシャーをかけるという意味での連帯保証人だった。
しかしうちの申込以外に、福島さんのところの300万円の借金の申込&契約までしなければならない家族は悲惨というより仕方がなかった。
大手サラ金のナルシンの申込だけならともかく、
得体の知れない金融業者の申込までさせられるなんてと思っていただろが、そこはさすがは福島さん。
家族にヤクザの借金が100万円あることをばらし、そことつきあっていたら家族の身にまで何があるかわからないと忠告したうえで、
ですからうちに申し込まねばならないのですという誘導をして、自分のところの申込をうまいこと納得させたのだ。
僕から見ればヤクザからトイチで無担保で100万円借り入れするのと、
町金業者から担保設定までされて300万円借り入れするのとでは、たいした違いはなかったように思うのだったが…。
無論、大手のサラ金から担保で3350万円借りてその保証人になるということも、狂気の沙汰といえばそれまでなのだが…。
そんなわけで連帯保証人の申込も終わり、再度店長に稟議書を提出したのだった。
ところがである。何を思ったか、店長は連帯保証人の申込を見るなり、「これじゃあだめだ!」といってつき返したのだ。
僕にはまったく意味がわからない。店長が連帯保証人が必要だからと両親+奥さんまで申込をさせてきたのに…。
「あのね、同居の家族じゃない、きちんとしたサラリーマンでないとね、だめだよ!」
「そ、そんな…。これで十分じゃないですか」
「まずね、奥さんは今、無収入なわけでしょ?今後パートぐらいするかもしれないけどね、月々10〜15万ぐらいの話でしょ。
そんなんじゃ論外だよ。あと両親ね。確かに今は二人で年金あわせて30万円あるかもしれないけどね、もう両方とも67歳でしょ?
確実に生きていると考えられる年齢は、うちでは70歳までだったことは知ってるよね?
とすると両親の保証があてにできるのは3年間だけってことでしょ。でも3350万円は3年でローン組むわけじゃないよね。
20年にも及ぶ長期なんだからね、67歳の両親なんてまったくあてにならないよ。
いい、同居していないで、きちんと正社員で勤めのわりに若いサラリーマンクラスを連帯保証人につけなきゃね、絶対だめだよ」
「そ、それは、あまりに厳しくないですか?こんなに厳しく言われたことはないと思いますけど…。
そもそも本人だけでも年収1000万円あるわけですし、そこの会社が離職率が高いからだめだっていわれたら、
審査にならないじゃないですか」
なぜ、この案件だけ執拗に店長が厳しく連帯保証人を要求するのかがまったくわからなかったので、
僕は思わず店長に反論してしまった。今までの案件でもこんなに店長が厳しく言ってくることはなかったはずだ。
「あのね、とにかくだめだよ。同居の家族なんかじゃあてにならないからね、きちんとした保証人を探してきて!!」
「でもそれって店長の考えじゃないですか。とりあえずこれで審査に出してみて、
審査がそういう保証人をつけろって言われれば探しますけど、もしかしたら審査ではこれで十分だと思い、
すぐに決裁出るかもしれないじゃないですか」
それが僕の一番の本音だった。審査から理不尽な条件を出されたら従うしかない。
でも審査に見せる前に店長がここまで神経質になる必要はないのではないか。
というか、両親や奥さんの連帯保証がなくても、多分本人だけでも審査の稟議は通ったんじゃないかと思っていた。
しかしその思いを正直に言ってしまえば、当然、店長を怒らせることになった。
「なに?八木君は私の言うことが間違ってるっていうの?!えっ?あっ?うっ?私はね八木君の上司だよ。
上司より審査の方が信用できるってこと?!」
なんでそんな言いがかりをつけるようなことを言うのだろうか。
入社したばかりの時は僕は何も知らなかったので店長に言い返すすべもなく、ただ言うことを聞いていたが、
入社半年が過ぎ、ある程度いろいろな案件をこなし、いろいろな知識がついていた今は、
自分の考えを持つようになりはじめたので、店長のいっていることがあまりにもおかしいので思わず反論してしまったのだ。
しかしこの店長に何をいっても無駄だということも、他の先輩と店長のやりとりではわかっていたはずだった。
店長に逆らわず、店長の言う通りにやるのが1番スムーズでやりやすいのだ。
しかしこれ以上、志村さんに別の連帯保証人をつけろなんて到底いえない。
志村さんがだらしない人間なのはわかるが、減額はされるは連帯保証人に3人家族をとられているは、
その挙句の果てにまたさらに連帯保証人をみつけろだなんてあまりにむちゃくちゃ過ぎる。
まして家族ではない第3者の連帯保証人のあてなんてそうそういるもんじゃない。
だってサラ金から3350万円借りる連帯保証人なのだから。
そして何より、そんな保証人探しをしていたら今月の融資に間に合わなくなってしまう。
そうだ、そのことを訴えれば店長も成績がかかっているだけに考えを変えてくれるかもしれない。
「でも、店長そんな保証人探ししていたら、今月間に合わなくなってしまいますよ。
とりあえずこの状態で審査に出して、もし保証人が必要だといわれたら、
もう今月の融資は難しいでしょうけど、そうでなければ今月にできるじゃないですか」
すると店長は驚いたように僕をにらみつけた。
「今月でできる?だったゴーゴーファイナンスの抹消でしょ。朝礼でもいったけどね、
ゴーゴーファイナンスも期末だから絶対今からじゃ、抹消になんか応じないよ」
「いや、それができるんです。ほら、前、6月に錦織さんの案件の時もそうだったじゃないですか。
日本総合ファイナンスの福島さんからの紹介なんですけど、ゴーゴーファイナンスの回収課長と裏でつながっていて、
そっから案件がまわってきてるんで、抹消書類を出してくれるんですよ。
今回もそのパターンなんで、うちの決裁が出ればすぐに抹消でき、融資できますよ」
今月できると聞いた店長の態度は一変した。
「八木君、それをなぜ早くいわないんだ?!そんだったらもうこの状態ですぐ審査に出しましょう!
今月3350万円できれば、新宿店の順位も変わってくるかもしれないな。そんな重要な案件だったら早くいわなきゃだめだよ。
じゃあ私の判おすから、すぐに審査に送って!!」
おいおいなんだよ、今月できるとなったら、さっきの連帯保証人はあっさりいらなくなってしまうのか?
なんだか店長もいい加減だなと思いつつ、とりあえずこの状態で稟議にかけてもらえてほっとした。
これで新宿店の順位アップだけでなく、僕個人の営業トップセールスの可能性がつながったのだから。
今月融資できる可能性があると知った店長が態度をコロリと変えたおかげで、すぐに審査に稟議をあげることになった。
しかし審査も期末で大変忙しいようだった。どこの店舗からも今期の成績にねじこみたい案件ばかりが殺到していたからだ。
キャッシング店舗にも不動産担保ローンの目標数値があり、店舗の規模に応じて、
不動産担保ローン契約件数目標および融資金額目標があったので、その目標に達成していない店舗が、
必死になんとかかき集めた案件を審査に送っていたからだった。
審査に送ってから1日がたっても何も連絡がこなかった。9月も残りわずか。なんとしてでもすぐに決裁を出して欲しかった。
店長も今月できるとなったら急に協力的になりだして、審査にプッシュしてくれた。
これでもし審査から店長のいうように、新たな連帯保証人をつけなければだめだという条件がついたら今月は無理だろう。
この3350万円の案件ができれば、新宿店は全店舗の中で3位から2位になり、
そして僕の融資総額成績が2位から一挙に1位に踊り出ることになる。なんとしてでも今月にやりたかった。
志村さんからも福島さんからも決裁はまだかまだかと頻繁に電話が掛ってきた。
僕もただひたすら待ってくださいというしかなかった。
そして審査に書類を提出して3日後、審査からついに連絡があった。高額案件になるので多少追加調査事項があるだろうと覚悟していたし、
店長のいう新たな連帯保証人要求も考えられなくはなかったのだが、なんとまったくそういったことなしに、
3350万円、20年、15%で決裁がおりたのだった。
「八木君!決裁がおりたよ。これで新宿店は2位間違いなしだな!!急いで契約して!」
ほら、やっぱり連帯保証人なんかいらないじゃないか。そう思いつつも、とにかく決裁があっさり出てうれしかった。
すぐに福島さんと志村さんに連絡し、契約の段取りをしたのであった。
決裁が出たのが9/27。志村さんは急いでいたので翌日9/28に連帯保証人含め、すべて契約は終えた。
よって9/29か9/30に、ゴーゴーファイナンスの抹消および融資実行ができれば、今期の成績になるのであった。
新宿店では期末の最後の最後で3350万円というミラクル案件で、新宿店が2位になること、
そして新人の僕が契約件数ならびに融資総額でもトップになることで話題がもちきりだった。
店の成績順位が1つあがれば店のボーナスが大きく変わるということや、
またしても僕が驚くべきことをやってのけたということで、もう大変な大騒ぎだった。
僕もすっかりトップセールスになった気でいた。
福島さんに志村さんの契約は終えたので9/29か9/30の日に融資したいので、
ゴーゴーファイナンスの抹消の手配をお願いしますといって電話した。福島さんも、
「ええ、うちは回収課長と裏でつながってますのですぐ用意してもらいますよ」といってくれた。
ところがその1時間後、福島さんから、
「抹消書類は10/1に用意しますってことでいいですよね?」と電話が掛ってきた。
「へえ?!10/1?それは困ります。なんとしてでも9/29か9/30にお願いしたいんですけど」
「いやあ、なんだかね、向こうも期末の成績がどうとかで9月中に返されちゃうと困るみたいなんですよ。
まあでもお客さんも急いでますからね、10/1という早い日にちで抹消書類を準備してくれるみたいなんで。
それでいいじゃないですか」
「いや、あの、うちも今月中融資のつもりで動いていて、もろもろ成績のことも大きく関係してきてるんで、
なんとか9月中にお願いしたいんですけど」
「ああ、わかりました。また電話してみますね」
しかし福島さんから再度電話があり、やっぱりどんなに早くても10/1でないとだめだという回答らしかった。
「別にいいじゃないですか。9/30と10/1とでは1日しか違わないんですよ。
志村さんもヤクザの返済を私が肩代わりしましたんで、別に9/30でも10/1でもどっちでもいいっていってましたし」
そ、そんな…。せっかく9月中だと思ってやっていたのに、今更10/1なんて…。
まあでも福島さんや志村さんにとっては9/30だろうが10/1だろうがたいした違いはないのだ。
それをこちらの都合で9月中といってもわかってもらえないのは仕方がないだろう。
でもまさかそんなことになるとは思ってもいないから、店長になんと言おう。それだけか問題だった。
しかし僕がどうその話を切り出そうかなんて悩んでいる暇もなく、その電話内容を聞きつけた店長が駆けよってきたのだ。
「八木君、絶対今月じゃなきゃだめだよ!」
「いや、でも、無理みたいです…」
「あのね、無理じゃ困るんだよ。新宿店の成績がかかってるんだからね、そんなすぐあきらめちゃ困るんだよ。
で、どこの業者?私から電話かけるわ」
「いや、それはちょっと…」
「いいから!」
といって日本総合ファイナンスの福島さんに電話を掛けたのだ。
福島さんと店長は前々からもめてるのに、また今回のことで輪をかけてもめてしまうんじゃあ、僕の立場がない。
案の定、店長はなんでもいいから今月実行させてくれと福島さんに圧力をかけていた。
でも福島さんからしてみれば、「私がゴーゴーファイナンスの回収課長とコネクションがあるから、
こんなに早く抹消してくれるんであって、もしそうでなかったら、
あそこはお客さんが抹消を申し出してから2週間後でないと抹消を受け付けてくれないんですよ」と突っぱねた。
店長は露骨にこちらの事情をのませようとしていた。この案件が今月できるか来月になるかで、
うちの店の順位が3位になるか2位になるかの天下分け目なんだと。
しかしそんな一方的な店の事情を話されれば話されるほど、福島さんは不快なようだった。
そんなことは福島さんには関係ないし、お客さんにとっても関係ないことだと。
こうして平行線のまま、店長はいつものごとくたんかをきって電話を叩ききってしまった。
「八木君、志村さんの資料一式、至急持ってきて!」
一体何をするつもりなんだろうか。あまりろくなことをしないのではないかと思いつつも、
ここで店長に逆らったら何を言われるかわかったものではないので、何もいわずにあわてて資料を持っていった。
「財務局に電話掛けてね、直接ゴーゴーファイナンスに圧力かけるわ」
「財務局?」
「そう。金融業を管轄している財務局にいってね、完済したいのに応じてくれないっていえばね、
ゴーゴーファイナンスも財務局クレームでびびるだろうから」
なるほど、そういうことか。財務局はそういった金融にかかわるクレームをお客さんから受け付けしている。
うちにも時々財務局クレームが入ることがある。それは取り立ての電話がひどかったとか、
ゴーゴーファイナンスと同じように抹消をすぐに受け付けしなかったとかそういう類のものだ。
うちなんかでは監督官庁に目をつけられるとやっかいなので、そういった財務局からクレームが入った場合、
お客さんに非があっても、すぐに対応してあげることがほとんどだった。
サラ金の大手になればなるほど、イメージダウンにつながる可能性のあることに執拗以上に神経質になっていたからだ。
しかしゴーゴーファイナンスに財務局クレームが通じるかは微妙なところだった。
あそこの会社は以前のサラ金騒動などにはまったく関係のない外資系のサラ金だから、
結構自分たちの論理を押しとおすところがある強引さがあったのだ。
でも店長としても財務局にいうことで抹消日が9月中になるかもしれない、最後の手段だと思ったのだろう。
しかし財務局に電話をしたところで無駄だった。というのも、ゴーゴーファイナンスの契約書には、
完済したい場合には2週間前に書面にてその旨を伝えることと書いてあったが、今回そういったことはまったくしていなかった。
そもそも福島さんの裏のつながりで抹消をあてにしていたので、わざわざ書面で完済の申し出などしているはずがなかった。
もしそれをしていたのに、2週間過ぎても完済に応じてくれない場合には、
契約違反ということで財務局からその支店の担当者にどうなってるんだという電話を掛けてくれたかもしれないが、
今回はそうではないのだ。むしろそういった完済申し出を事前にしていないにもかかわらず、
10/1に抹消してくれるというのは素早い対応だったので、クレームのつけようがないのだ。
それでも店長は、ゴーゴーファイナンスが9月は期末だからという事情で、
わざわざ1日ずらしにしたのだと文句を言い続けていたが、それをいえばいうほど、
結局こっちも期末の成績にしたいからというお客さんとは関係ない会社の都合で、
そういうことを言っているだけじゃないかということがわかってしまう結果となったのだ。
それでも店長はめげずに財務局に文句を言っていたが、今回の場合はまったくゴーゴーファイナンスに非がないし、
またそもそもクレームをつけているのがお客さん本人ではないことから、財務局ではまったく受け付けてくれなかった。
店長は電話が終わった後もずっとぶつぶつ文句を言っていたのだが、
3350万円の案件が今月中にできそうもないということを本部の川藤部長に報告したが、怒られるわけでもなく、
それがなくても今期の新宿店はよくやったというお褒めの言葉をいただいたせいで、すっかり気をよくして、
「まあ、八木君、来期のためにとっておきましょ!」っといって一件落着したのであった。
つづく