39:トップセールスを賭けた戦い2
担保物件は千葉の住宅地にある一戸建て。坪数は約70坪。付近の平均的な一戸建て物件の坪数は40坪前後。
つまり2軒分取れる広さだ。売るときのことを考えれば、2つに分割しても売れる広さがあるのでいい土地だ。
ただ現状の評価としては、平均的な坪数より2倍近い広さがあるので、坪単価は低めにせざるをえない。
40坪ぐらいなら坪70万円はするところだが、坪数が大きいので坪60万円で計算しても、土地値で4200万円もの価値がある。
さらにまだ建物が新しい。ナルシンでは築15年までなら建物も不動産の評価額に加える。
ただしどんなに特別に金をかけて凝っている家だろうがなんだろうが、建物評価の計算式は一律で、
(15ー築年数)÷15×坪数×坪30万円と決まっている。
式の意味は15年で建物価値が0になるとの計算で、残りあと何年の価値があるのか。
広さは1、2階あわせた坪数。坪30万円というのは家の原価的な坪単価ということだ。
まだ築5年で、2階建て、建坪50坪。
よって(15年ー5年)÷15年×50坪×30万円=1000万円の建物評価だ。
土地4200万円+建物1000万円で担保評価は5200万円。一番抵当なので掛け目70%で3640万円まで融資できるが、
土地値だけの評価ではないし、また志村さんも欲しいとはいえ必要ないのだから、申請金額は3500万円で掛け目67%。
これなら掛け目めいっぱいじゃないからスムーズに決裁がおりるのではないかという目論見もあった。
自宅は本人と妻と子供、そして本人の両親の5人で暮らしている。
5年前に結婚した際に、両親が持っていた土地に2世帯用の家を新築したのだ。
土地はその時、両親から息子の本人名義に変更されていて、家も本人名義。
家のローンが1500万円、銀行から借りていたが、
その3年後に、ゴーゴーファイナンスが住宅ローンの銀行も借り替えし、2800万円融資している。
その金については、本人は友達と事業を起こそうとして失敗し、
その友達が逃げてしまったために連帯保証人になっていたので、借金をかぶったと説明している。
しかしなぜ安い金利の銀行1500万円を、ゴーゴーファイナンスに借り替えなんかしてしまったのだろうか。
これだけ担保評価に余裕があれば、1番抵当の銀行を残したまま、
ゴーゴーファイナンスが2番抵当で貸すこともできたのではないかと思ったが、
1番抵当の銀行はただの抵当権ではなく根抵当権をつけていたのだ。借りいれしたのは1500万円で、
その時、残高はローンを4年返していたので1200万円ぐらいまで減っていたのだが、
根抵当権で極度額2000万円つけられていたために、ゴーゴーファイナンスとしてもうちと同じように、
残高ではなく根抵当権の極度額で担保評価をしたから、貸せなくはなかったのだろうが、
あまりにリスクが多かったので、1番抵当の銀行の借りいれもくわなければ融資しないという意図だったのだろう。
つまりゴーゴーファイナンスから2800万円借りいれしているものの、
そのうち1200万円は銀行の住宅ローン返済にあてられたことになる。
事業失敗分の借金は手数料などを引けば実質1500万円ぐらいだろう。
その失敗の後、彼は今の大手運送業者に勤め始めた。これで謄本履歴の説明はつく。
志村さんがあわてて支払ったのか、税金の未納はなし。ゴーゴーファイナンスの遅れもなし。
資金使途は借り替えで、その内訳は、
ゴーゴーファイナンス2800万円
サラ金300万円
友人借金100万円
媒介手数料150万円
当社の費用・手数料150万円
合計3500万円で申請。
金利15%、返済期間20年でも月々返済は46万円。
月の給料は約70万円でかつ大手運送業者勤めで、属性、返済能力は問題なし。
よっしゃ!これで月内3500万円融資ゲットで、全店トップセールスマンだなと思い、
自信満々に店長に稟議書を提出したのだった。
今まで必ずといっていいほど事前に店長に案件をみせていたが、今回は期末でバタバタしていたこともあり、
また急に申込となったので、まったくみせていなかった。特に問題もなさそうだということもその要因だったのだが。
しかし稟議書を見て、思わぬ店長の反応がかえってきた。
「これ、だめだよ!」
「へっ???」
「あのね、八木君、これ、担保評価も属性も難があるからね、このままじゃ無理だよ」
予想外の言葉である。きっと店長は思わぬ高額案件に泣いて喜ぶに違いない。
なぜならこの案件が9月中にできればひょっとすると新宿店は担保ローン店で2位になれるかもしれない案件だったからだ。
「あ、あのー、ど、どこが悪いんでしょう…」
「まずね、担保評価だけどね、建物評価で1000万円もあるんでしょ。ってことはこんなぎりぎりの掛け目では無理だよ」
「いや、建物評価を入れても掛け目は67%ですが…」
「あのね、土地値だけだったら何%になる?土地値が4200万円ってことは、3500万円だと掛け目83%になるよ。
最悪の事態も考えてね、土地値だけになった場合でも80%ぐらいに抑えなきゃ厳しいよ。
4200万円の80%だといくらになる?うーん、3360万円か。いいとここのぐらいじゃない」
「そ、そんな…。だって不動産担保融資マニュアルにのっとって建物評価して、
それで規定の70%以内になっていればいいんじゃないですか?」
「あのね、マニュアルはマニュアルなんだよ、所詮ね。建物評価いれるにしても土地値の80%越えたら危険水域だよ。
それにね、70坪もあるんでしょ?八木君は分割可能って書いてあるけど、
建物評価のある新しい立派な家が土地中央に建ってるわけでしょ。
ってことは分割して売るならこの建物ぶっこわさなくちゃいけなくなるよ。そうしたらね、建物評価はなくなるし、
建物ぶっこわすのにだって金かかるし。そうなったらこの担保評価じゃみれないでしょう」
「いや、別に分割っていうのは今すぐとかそういうつもりじゃないんですけど…」
「じゃあ分割できない普通より大きな案件ってことは当然単価は下がるでしょ。70坪もあって坪単価60万円で大丈夫なの?
付近の平均的な相場は40坪ぐらいで坪単価70万円で土地値で2800万円ってことでしょ。
倍近くあるとはいえ4200万円もする土地なら、当然流通性は悪くなるよね。
そういうことも配慮したら良案件とはいえないでしょ。まして3000万円以上の高額なんだからね、
3500万円ははっきりいって無理だわ。ほんと建物評価の家なんか建ってるより、
ボロ屋ですぐとりこわしができる建物だった方が、
簡単に2分割できて売りやすい小ぶり物件になるから流通性はいいっていえるけどね」
そんなばかな。審査に出してみてそういわれて減額されるならともかく、
店長の勝手な思いこみで減額しなくってもいいじゃないか…。
しかしそんな思いもおかまいなしにさらに続けて店長はいった。
「あとね、こいつの属性はだめだよ。この大手運送業者だけどね、確かに給料はいいけど、
仕事はきついしノルマは厳しいし、離職率が極端に短いところなんだよ。
こいつ、あともって2、3年だと思うよ。下手したら1年。
この会社は3年以内に80%の人間が辞める会社なんだよ。それだけ仕事がきつい。
だからこいつも勤続年数浅いのに1000万円以上ももらってるけど、この会社辞めちゃったらどうなる?
到底月々46万円なんて返していけないよ」
そ、そんなことなんて知らないよ。それに辞めてしまうかわからないじゃないか。
そんな話してたら誰にも貸せなくなるじゃないか。
「それだけじゃないよ。こいつゴーゴーファイナンスで1年前に借金のまとめしたにもかかわらず、
もうすぐにサラ金300万円、友人から100万円も借りてるってことは、相当金に困っている、
目に見えない借金がまだあるか、よほど金ぐせ悪いか。いずれにしても相当属性は悪いよ。
だからね、こいつだけじゃ貸せないな。あと一人、若くて勤めて収入のあるきちんとした連帯保証人がいないと無理だね」
がーん。そんな。あまりにも厳しい見方。しかし僕が志村さんに接して抱いた不信感を、
店長は会ってもいないのに書類からだけで見事に嗅ぎつけたのだ。
その点を指摘されると僕も言い返すことはできなかった。
店長の言う通り、ゴーゴーファイナンスの今の返済も遅れていたのだから。
連帯保証人は家族に頼むしかあるまい。しかし減額になったらどうしたらいいんだろうか。1
50万円減額されるとなったら、真っ先に友人の借金返済100万円は積み残しするとしても、
あと50万円、どこか費用を削らなければならない。
削るとしたら媒介手数料を150万円から100万円にしてもらう以外ないが、
日本総合ファイナンスの福島さんは絶対にうんとはいわないだろう。でもとりあえず頭を下げてお願いできるとしたら、
どう考えても福島さんのところしかない。福島さんもやらないよりやった方がいいし、
50万円の不足分だったらうまいこと貸し付けにして志村さんからきっちり取りたてるんじゃないか。
そうとなったら早めに福島さんの耳に入れておいた方がいいだろうと思い、
すぐ電話をかけようとしたが、ちょっと待てよと思った。
まだどうなるかわからない。先に連帯保証人がつくかどうかの問題もある。
それに審査から正式に3350万円しか出ないといっているわけではない。
もしかしたらもっと減額される可能性だってないことはない。3350万円といっているのはあくまで店長の見解だ。
ここで福島さんに3350万円と伝えてたら逆にもう3350万円で決まったようなものだと思われてしまう可能性がある。
もしさらに審査で減額されたら、さらに福島さんの信用を失うことになる。
すべて結果が出たら福島さんには伝えるようにしよう。
となると、あとは志村さんにどう話すかだな。しかしまいったな。
あんだけ急いでいた志村さんに、連帯保証人と減額のダブルパンチじゃ相当応えるだろう。
というか、いろいろわあわあ言われるよな。それが営業マンとして一番、辛いところだ。
審査とお客さんに挟まれてどっちからもわあわあ文句を言われるのだから。
文句をいわれるのを覚悟で志村さんに電話をかけた。するとものすごい明るい声で電話口に出た。
「もう融資決まったんですか?!思ったより相当早いですね!」
まいったな。まるっきりそれとは逆なんだけどな。
「あのー、まずですね。審査にちょっと打診したんですがね、やっぱり連帯保証人が必要なんです」
「保証人?なんでですか?年収1000万円もある大手運送業者勤務の俺に保証人が必要なんですか?」
「ゴーゴーファイナンスで1年前に借金をとりまとめたはずなのに、さらにその後、サラ金300万円、
友人から100万円と借りてるでしょ。つまり相当金に困っている人だと思われてるんですよ。
特に今回はゴーゴーファイナンスの時よりさらに金額がアップするわけでしょう。
だからね、連帯保証人が必要だといわれたんです」
「保証人のあてなんかいないですよ」
「あのー、同居してる両親とか奥さんでいいんですけど」
「両親だったらいいですよ。すぐ話しておきますから。でも収入はどっちも年金しかないですよ」
「それで十分です。では申込は自宅に直接お伺いしますんで」
「一応俺のいる時じゃないとまずいなあ。仕事休みとれないしな。まいいや。ちょっと仕事を抜け出してなんとかしますよ。
もうその二人が連帯保証人になればOKってことですか?」
「いや、それと、減額される可能性が出てきました」
「減額?!はあ?でいくらっていってるんですか」
「まだ正式に決まったわけではありませんが、3350万円ぐらいになるかと思うんですが」
「そりゃまずいなー。150万円も少なくなったら計算合わなくなるじゃないですか」
「まあですので、友人の100万円は後回しにしていただいて、
福島さんの媒介手数料は、ひとまず100万円払ってもらって、
50万円は借金って形にすればなんとかできると思うんですけど…」
「いやあ、それはできないですよ。今回ちょっとね、友人の借金はどうしても真っ先に返さなくちゃいけないんで。
サラ金の300万円を返済せずに積み残しすればまるまる浮くんじゃないですか?」
「いや、それはできないです。うちより金利の高い同業者のキャッシングを残すってことは原則としてできないんです」
「まいったなあ。でもかといって今さら他の会社に申し込んでる暇もないしなあ。なんとかならないですか八木さん」
「う〜ん、やっぱりその友人の借金を伸ばしてもらう他ないですよね。
別に友人から借りてるんだったら金利がかかるわけじゃないでしょうし」
「あの、実はね、八木さん、これもちょっと審査の人とかにいわないでほしいんですけどね。
友人の借金って、そのー、ようはね、ヤクザからの借金なんですよ」
「ヤクザから?!」
おいおい頼むよ、志村さん。何かがおかしいと思ったらそういうことだったのか。
「だから、今回どうしてもその100万円を支払わないとまずいんですよ。トイチっていうんですか。
10日で1割の金利とるやつのこと。だからほんとまずいんですよ。それが返せないと」
そりゃまずいだろう。しかしまいったな。金額は店長からよくて3350万円っていわれてるし、
かといってそのヤクザの100万円の返済分を融資金から出すのは不可能だ。
まいったな。もうこの案件はだめかなと思った時だった。
「あのー、福島さんところをぬかせばいいんじゃないですか?
そしたら媒介手数料そこに払わなくていいんですよね。
そしたらゴーゴーファイナンス2800万円、サラ金300万円、ヤクザ100万円、
ナルシンの手数料・費用150万円でぴったり3350万円じゃないですか。だめですか?」
なんと見事な計算だろうか。福島さんの媒介手数料がなくなるとちょうどぴったり収まるのだ。
しかしそれはどうやったってできない。
「それはまずいですよ。福島さんのところから紹介していただいていますからね。
それか媒介手数料分は福島さんところに借り入れしてもらうかでしょう」
「でも、福島さんのところ何にもやってくれてないのに、なんで150万円もとられなければならないんですか?
じゃあたとえばもし私が福島さんのところ断って、ナルシンの違う支店に申し込んだらどうなるんですか?」
ギクッ。それが実はうちの盲点なのだ。
不動産担保ローン専門のうちの店だけが不動産担保ローンを全部受付しているならともかく、
ナルシンのキャッシング店舗でも普通に不動産担保ローンを扱っているのだ。
もちろんどこの店でやろうが、審査をするのは同じところ。だから原則的にいえば、どこで申し込もうが結果は同じになる。
ということは媒介業者を通してやっているうちの店ではなく、直接違う店舗に申し込まれたら、
志村さんの言うように媒介手数料なしで融資ができてしまうことになるのだ。
もっともキャッシング店舗の場合、不動産担保ローンを専門でやっていないので、はじめっから審査の指示に基づいてやる。
そのためうちの店のように互角に審査と交渉しあえることはできないので、
融資まで時間がかかるし、金額の調整などうちの店より不利になる可能性はあるのだが。
なんと答えればいいのか僕が迷っていることが、
志村さんに「他の支店で申し込んだら手数料を払わなくてすんでしまう」と暗に伝えてしまったことになった。
「やっぱり、そうなんですね。私、じゃあ福島さんの方、断って他のナルシンさんの支店に申込しますよ。
そしたら八木さんが集めた資料、その支店に渡してくださいね。じゃ、よろしく!」
といって一方的に電話を切られてしまったのだ。
ああ、3350万円という巨額案件があっけなく消え去ってしまった。
しかも悔しいことにそれがうちの他の支店に持っていかれてしまうことになるなんて…。
やっぱりもうこれで今期はうち止めかな。契約件数は多分全店でトップだろう。
それで十分じゃないか。そう自分を慰めるしかなかった。
すると1時間して、福島さんから電話が掛ってきた。志村さんに断られた報告かとてっきり思ったが、そうではなかった。
「八木さん、なんか志村さんが断るとかいったんですって」
「ええ、そんな風にいってましたけど。そちらに電話を掛けるって」
「あの、そのまま進めてください」
「へえ?でも…」
「うちでお客さん納得させましたから」
えっ?そんなことができるのか。どうやったって無理じゃないか?!
僕が不審がっているのを察知したのか、福島さんが説明してくれた。
「あのね、うちはきちんと志村さんと媒介契約書結んでるんですよ。
成約したら5%の媒介手数料をもらうという正式なものなんですけどね、
そこにはお客さんの勝手で契約を途中で破棄したら、違約金として媒介手数料と同額を払うって明記してるんですね。
だから今、志村さんが途中でうちの手数料払いたくないがだめに申込やめたとしても契約違反になるから、
結局うちに金払わなければいけないんですよ。まあそれでね、志村さんもあきらめがついたんでしょう。
もううちから逃れられないってことを」
さすがだ、福島さん。結構てきとーにやっていて客から逃げられるんじゃないかと、
いつも心配していた業者だったが一応やることはやっているんだ。逆にその契約書をきちんと結んでるから、
客は逃げられないと確信があって、申込もろくについてこないでうちまかせにしてるんだな。
志村さんが断れない状況でうちの他の支店なんかに申し込みせずに済み、うちでできることはありがたかったが、
結局、減額になる可能性があって媒介手数料が出ないっていう問題はまだ残っているのだった。
「それで、なんか減額になりそうなんですって?」
「ええ、建物評価の割合が多い問題とか、志村さんの属性・謄本履歴があまりよくないとか、
金額が3000万円を越えることとかあって、かなり金額には慎重になってるんです」
「それは困りましたね。うちも融資した時に手数料を回収しないと、どうしようもないですからね。
なんとか金額アップなりませんか?」
「厳しいと思います。3350万円が上限だと思います。ただ問題はさっきはじめて知ったんですけど、
ヤクザのトイチの借金が100万円あるってことなんです。
それを何よりも返済したいっていうんで、だいぶ計算が狂ってきてしまったんです」
「ほんとどうしようもないなー志村さん。でも連保をとるんでしょう?」
「ええ、あの大手運送業者は年収はいいけど離職率が異様に高いから、本人だけではだめたっていわれたんです」
「じゃあ、うちもなんとか対応考えないといけないですね。3350万円だとして、ゴーゴーが2800万円、サラ金300万円、
ナルシンの手数料が150万円、この3つで3250万円ですよね」
「はい」
「じゃあね、うちからヤクザの借金100万円を先に貸付ますよ」
「えっ?!そんなことできるんですか?」
「ナルシンさんが連帯保証人の申込をする時、私も一緒についていってね、
両親と奥さんと本人の4人に無担保でヤクザの借金100万円とうちの媒介手数料5%167万円、
あわせて267万円+諸費用+利息先取りで300万円の貸し付けしますよ。
本人だけじゃとりっぱぐれる恐れがありますけどね、両親と奥さんも保証人に入れれば、まあなんとかなるでしょう」
そうしてくれるならありがたい。手数料がでないためだけに案件が流れてしまってはどうしようもないが、
そういう臨機応変な行動をとってもらえると大変助かる。
いい加減だと思っていた福島さんも結構やる時はやるじゃないかと思わず見直してしまった。
「とにかく先に100万円出してヤクザと縁を切らせますよ。でないとこのまま借りてるとナルシンさんから金が出る前に、
下手したらお客さん潰れちゃいますからね。それでナルシンさんから3350万円出たら、その100万円分は回収します。
あと残り200万円はその場で回収できないけど、その分利息のっけて、本人からじゃなく両親から回収するしかないですね」
「そうしていただけると助かります」
「あと、担保設定が終わったらお客さんに権利証返す時にうちも呼んでください」
そういえば前にも同じようなケースがあった。権利証預かりでプレッシャーをかけ、
融資時にとれなかった媒介手数料の担保にするのだ。
「うちも場合によったら、ナルシンさんの後順位で抵当権うたせてもらおうかなと思ってますんで」
おお、そこまでやるか。前の業者は権利証を預かるだけで実際に抵当権までは打たなかったと思うが、
福島さんの慎重ぶりがうかがえる。もちろん1番抵当でうちが3350万円の融資で、
多分根抵当権で5400万円の極度額設定をした後に、福島さんのところが抵当権をうったとしても、
担保からとれる可能性は少ないが、実際に設定すればお金を返さなければならないという大きなプレッシャーになる。
たかが残り200万円といえどもそこまで福島さんがやるということはよっぽど志村さんを信用していないんだろう。
「まあ、抵当権設定するっていっても本登記はしませんよ。お金がかかるからね。
順位確保のためと万が一のために抵当権設定仮登記にすると思いますんで」
実際に本登記してしまうと登記費用は税金だけで設定金額の4/1000かかる。
それに司法書士の報酬が加えられるのでお金がかかってしまうが、
抵当権の仮登記ならば不動産1個につき一律1000円しかかからない。
その辺の知識はさすが何年も金融業をやってきている福島さんだけはある。
まあ多分そうはいってもそんなことはお客さんにわからないから、300万円貸し付けるにあたって、
登記費用という名目で10万円ぐらい上乗せしてとったりはするのだろうが…。
まあでも福島さんがうちの融資金から媒介手数料がでなくても、
連帯保証人と担保設定という方法で貸付してくれるのはうちにとっては大いに助かることだった。
媒介業者の手数料が融資金から出ないからそれでもうこの案件はボツになることはなくなったのだ。
福島さんとしてもうちで手数料分がでないからこの案件をやめてしまったら一銭にもならないからだろう。
本来ならば、うちで今回のように媒介手数料分まで出ないような場合は、ゴーゴーファイナンスに紹介すれば、
利息は高いがうちより金額が出る可能性があるので、うちを断るんだろうけど、
今回はゴーゴーファイナンスの抹消だからそれはできない。
また第一ファイナンスならうちより金利が安く貸せるのでお客さんを説得するためにも、
第一ファイナンスに先に紹介したのだろうが、きっと机上評価の段階でこんなに金額が出なかったに違いない。
媒介業者が主に不動産担保ローンを紹介する先はこの3つなので、
第一ファイナンスもだめ、ゴーゴーファイナンスもだめなら、
手数料がでなくてもうちでやらざるをえないと判断したのだろう。
もちろんこの3社以外にも中小様々な金融業者が不動産担保融資をしているが、
べらぼうな金利になってしまうし、手数料もとるので、媒介業者としてはふりにくいのだろう。
そもそも福島さんのところだって少額であれば不動産担保融資をやることもあるのだから。
そんなわけで福島さんの提案のおかげで、志村さんの案件は生きかえったのであった。
つづく