サラ金!

入社5ヵ月目:8月
7月は結局6200万円の1件だけに終わってしまった。
不動産担保プランナーからもらった楽勝案件のはずだった安野さんから書類が届かないために、
ストップになってしまったのだった。7月が終わると、現在の店および個人の営業成績が発表された。
半年区切りで店の成績や個人成績が査定される、残り2ヶ月の追いこみ時期となったからだ。

★店舗成績
1位:大阪店
2位:札幌店
3位:新宿店
4位:福岡店
5位:仙台店
6位:名古屋店

毎年、圧倒的な力を誇る大阪店がダントツ1位。2〜5位まではだんご状態だが、札幌店が2位。
新宿店がなんと7月の6200万円効果もあって、一挙に3位に急上昇。
最下位は、店長の不正のせいで大幅人事異動の影響をもろに受け、未だその後遺症から不振が続く名古屋店だった。

「おいおい、すげえぞ。うちの店が3位だってよ。信じられる?毎年最下位の新宿店が。
なんせ店舗成績の順位で冬のボーナスが決まるからな、がんばらなくっちゃ」と野村さん。
しかし「いやあ、それはのんきな考えだよ、野村さん。
新宿店が3位になってもわれわれのボーナスはたいして変わらないんじゃないか?
だって店にもらったボーナスは個人成績によって割り振られちゃうからなあ。
このままでいくと新宿店のボーナスは八木君独占じゃないか。わっはっは」となぜか陽気な蓑田主任。

とにかく新宿店の士気は今までにないほど明るかった。
それは今までどうやっても絶対ビリにしかならないというあきらめしかなかったのが、
今回ばかりはミラクル新人・八木効果でひょっとするとひょっとして最下位脱出できるんじゃないかという、
ある種の希望を抱けるようになったからだ。もちろんその希望は単に新宿店の好調だけでなく、
今期は、不正でつまずいた名古屋店の最下位は確実だろうから、
このままどんなに成績が悪くても名古屋店には抜かされないだろうという理由も大きな要因ではあったが。

そして注目の個人成績も驚くべき順位だった。
★個人成績(契約件数・融資金額)
1位:村山(大阪)9件1億1000万円
2位:八木(新宿)7件9330万円
3位:浜中(大阪)8件8800万円
4位:星野(大阪)7件7900万円
5位:清原(新宿)5件7800万円
…8位:岡田(新宿)8件6400万円
…ビリ2:野村(新宿)4件2900万円
…最下位:蓑田(新宿)4件2800万円

「おお!すげえ。八木君が全店でも2位の成績だぞ!6200万円案件の実行で一挙に2位になったんだ」
「しかし大阪店の村山君はいつもすごいねえ。もう1億円プレイヤーだよ」
「いやいやめずらしく清原さんが善戦してるじゃない?5位なんて信じられない成績だよ」
「岡田君も融資金額は少ないけど、件数は8件で2位タイだからなあ。あと2ヶ月で新人にまけじと猛ダッシュかけるかもよ」
と野村さんと蓑田主任は自分の成績を棚にあげて、他人の成績論評に熱心で、相変わらずのん気だった。
途中で新宿店に異動してきたので今期は個人成績対象外にもかかわらず、
その新川さんの営業成績はすでに野村さんと蓑田主任の成績を追い抜いていたというのに、まるで危機意識がない…。

「八木君やるねー。しかしもうすぐ2000万円の融資実行があるから悪いけど、成績は抜かせてもらうよ。
全店トップなんてバカなことは考えてないけどね、新宿店で悪いけど1位とらしてもらうからね」
と清原さんはすっかり僕をライバルと定めたようだ。しかし、
「でも俺、今月2000万円やったら休ませてもらうから。なんたって8月は高校野球だからな。悪いけど仕事してる暇ないからさ」
と相変わらず、さぼりも忘れない。この人、さぼりなんかしないで8月も全力でやったらすごいんじゃないかと思うけど、
清原さんいわく、「さぼりという大目標のためにがんばってるからこんないい成績をあげられるんだよ。
毎日がんばってるやつはバカだ」ということになる。

岡田先輩も必死だ。僕の教育担当として、後輩がこれだけの成績をあげられたのはうれしい反面、
後輩になんとしてでも負けるまいという意地はかなりのものだった。それは口にはしなかったが、
新人でいきなりあっさりいい成績をとってしまうことで天狗になってしまって、あとで成績が悪くならないように、
仕事はそんな甘いもんじゃないと自分が上位になることで教えてあげようという強い思いがあったようだ。

「八木君、この調子でばんばん融資していけよ。俺たちは同じ店の社員という意味では仲間やからな。
ただ個人個人はみんなライバルってことも忘れたらあかんで。八木君に負けないよう猛ダッシュかけるからな。手抜いたらあかんで」
僕は全店2位という実感がどうにもわかなかった。どこかでまだこれはまぐれでしかないという思いを、
自分が一番強く感じていたし、何より、いつもこの次に動ける案件も少なく、
案件をいっぱい紹介してくれる紹介業者も少ないという危機感があったからだ。

5月は最高契約件数記録、7月には最高融資金額記録と華々しい活躍をしていたものの、
自分にはそれがいかにすごいことなのか、入ったばかりであまり実感がなかったのかもしれない。
そしてベテラン社員と違って、仕事の全体像や会社の全体像がいまいち把握できないでいたからこそ、
手を抜いててきとーにこのぐらいまでやればいいという容量がまったくわからず、
常に危機感と謙虚な姿勢を持っていたがゆえに、良い成績をあげていたのだろう。
自分ではそんなことに気づきもしなかったのだが。

いずれにせよあと2ヶ月で、1つのシーズンが終わる。野村さんや蓑田主任以外は、1つでも個人成績順位をあげて目立ち、
昇給や昇進を狙おうという営業マンたちばかりだった。だからこそ僕の成績の目立ちようは、
新宿店のみならず好調の大阪店や他の店舗の社員にも競争心を煽りたてることになっていたのだが、
自分はそんなところまで影響を及ぼしているとは知るよしもなかった。

6200万円融資後、唯一抱えている安野さんの案件は、依然として安野さんから書類待ち状態だった。
よっぽども自分で行って書類を取ってこようかと思ったが、安野さんが自分の職場である市役所に、
自分の書類を委任状かなんかで取りにこられたら、職場で噂になってしまうと拒んでいたので、
確かにその理由はもっともだったので、安野さんを待つことにした。
動ける案件もないので、僕はただひたすら金融業者営業に力を注いでいた。
営業にも慣れてきたせいか、まともに話を聞いてくれるところが増えたし、また度胸がついたのか、
まったく名簿などからリストアップもせず、町をぶらぶら歩いて金融業者だと思ったら突然、入って営業をかけるという、
まったくの突然アポなし営業も頻繁にやるようになった。

6200万円を融資した今、僕の最大の課題は営業成績を維持できるように、お客さんを紹介してくれる紹介業者を見つけること。
これに今後の僕の成績すべてがかかっているのだった。でもそんな風に思ってからもう2ヵ月あまり経つものの、
継続的に案件を紹介してくれる業者は未だなかった。ただやみくもといえども数は相当数まわっただけあり、そのせいか、
今になって、すぐに成約しないまでも、営業でまわった業者から、
問い合わせの電話や案件のファックスがやっとくるようになったのだ。
残念ながらすぐに融資ができそうな案件は入ってはこなかったが、
まったく営業をまわった先から反応がなかった以前と比べれば大きな前進だった。
新規開拓し、いきなり6200万円もの高額案件を成約させた佐藤金融からは、手数料でもめたせいか、あれ以降、何の音沙汰もなかった。
僕としても手数料でもめた経緯があったので、こちらからまた案件を紹介してくれとは言いづらかった。
1件で終わってしまう業者ではなく、少額でもいいから案件を継続して紹介してくれる業者が欲しかった。

そんな時、以前、近場の金融業者をアポなしリストアップなしで訪問しまくっていた先のある町金から、いけそうな案件が入ってきた。
「MMMクレジットの片岡ですけど」
はじめそう言われた時、まったくどこのどんな業者か思い出せなかった。
とにかくリストアップもせずやたらめったら営業をかけていたし、名刺すらもらっていないのだから、
社名や名前を言われてもさっぱりわからないのだ。そんな弊害もあったが、向こうは僕が渡した名刺を見て電話を掛けているのだから、
僕が営業したところには間違いない。それほどやたらめったら僕は数多く町金を営業で回っていたのだった。

「あのー、担保評価はね、うちでもちょっと調べたんですけど、十分だと思うんですよ。ただ問題があってね」
だいたいうちに来る案件なんてそんなものだ。どこかしら問題がある。
問題がない案件なら10%以上もの高利で不動産担保でサラ金から金を借りるわけはないのだから。
最近、その「問題」をどうクリアするかが、案件ができるできないのポイントだということに気づき始めたのだった。

「まずね、大きな問題は借り入れ本人がブラック(ブラックリストに載っている)なんですよ。
ただ親の連帯保証はつきます。担保所有者が父親なんで。あとはね、物件がね、北海道なんですよ。
ナルシンさんのパンフレットには全国やりますって書いてあったみたいだけど、北海道でも大丈夫ですかねえ?」
ブラックリストに載るといっても様々な内容がある。サラ金返済の延滞なのか、差押さえなのか、自己破産なのか。
それが現在も未解決のままなのか、それとも過去に一度そのような事故を起こしたのか。
単にブラックといってもその内容によっても大きく違ってくるので、まずその内容は何なのかを聞いてみた。

「クレジットカードのキャッシングの延滞でブラックになってます」
「それはいつ頃の話ですか?」
「先月事故発生になって、現在も延滞中ですよ」
「金額はいくらかわかりますか?」
「40万円ですね」
「今、働いてはいるんですよね?」
「ええ、タクシー運転手ですよ」

基本的にブラックリストに載った時点で、現在どんなに収入があっても支払い能力はゼロとみなされるので、
借りいれ本人だけで融資することはまっとうな金融機関ならまず無理だ。
融資するためには支払いができる連帯保証人の内容いかんにかかってくる。
「連帯保証人はまだ働いているんですか?」
「ええ、働いてますよ。60歳ですけど、地元のデパートで警備員やってまして、月30万円ぐらいの収入はあるみたいです」
「で、希望金額はいくらぐらいですか?」
「400万円ですね」
400万円なら60歳で月収30万円の警備員でも問題あるまい。となると、あとは担保評価次第だ。

「じゃあすみませんが、登記簿とかあったら送ってほしいんですけど」
「わかりました。住宅地図はないですけど、土地・建物の登記簿謄本はありますので。
1番抵当だから担保評価は十分でると思うんですけど。北海道の札幌市内なんですけど大丈夫ですか?」
札幌か…。高額案件なら新宿店でやっても問題にはならないだろうが、
400万円1件のために札幌まで出張に行くのはいくらなんでもまずいだろう。
だってそのために札幌店もあるのだから。「ちょっと店長に相談してみます」といって、店長に事情を話した。

「店長、東京の業者から札幌の案件を紹介してもらったんですけど、
さすがに400万円1件では、札幌店にやってもらう方向になりますよね」
すると店長は血相を変えて怒りだした。
「あのね、八木君、うちの店は何位だか知ってるの?!」
「確か3位に浮上したんですよね…」
「札幌店は何位?」
「いや、そこまでは覚えてなかったんですけど…」
「あのね、何のために仕事してるの?いい、社員同士も店同士も営業は競争がすべてなんだよ!
札幌店はね、2位なんだよ、2位。なんでね、残りあと2ヶ月で熾烈な争いをしている時に、
3位の新宿店から2位の札幌店に1件プレゼントしなきゃいけないの?えっ、あっ、うっ?!
そんなバカな話がね、あるわけないでしょ!!」

「でも…確か500万円以下で遠方案件の場合はなるべく近くの店舗にまわすとか以前にいっていたような…」
「あのね、それは前の話でしょ。今はね、そんな時期じゃないの!あと2ヶ月でね、私の運命も店の運命も、
その他の社員の運命も決まるっていう大事なときにね、そんなことするバカいないでしょ!
第一、その札幌の案件っていうけど、業者も東京で借りいれ人も東京じゃないの?」
「たしかそうだったような…」
「だったらね、なんで札幌店にあげるわけ?!そんなこと私が絶対に許さないからね。
今は残り2ヶ月で猛ダッシュをかけるためにね、
どんな少額な案件でもどんなへんてこ案件でもとにかくうちでやるからね!わかった!!」

そんなわけで、札幌店にまわすこともなくうちでやることになった。
せっかく新規の業者からの紹介を札幌店にふらずに自分でできることはうれしかったが、
そんな能率の悪いことをやっていてもいいのかなと疑問には思ったのだが…。
ところが、机上評価する際に住宅地図がなかったので、札幌市内の住宅地図を札幌店に送ってもらったことから、
新宿店で札幌の案件をやろうとしているということを、札幌店の店長が本部に告げ口するという思わぬ騒動が起きてしまった。
本部か店長宛てに電話が掛ってきたのだった。しかし店長は強気の態度で本部に必死になって反論した。
紹介業者は新規でしかも東京であること。借りいれ本人も東京で、お金の受け渡しなどは東京でやる必要があること。
たとえ400万円と少額案件といえども、新規業者から今度もっと高額な案件をもらえる可能性があるので断れないこと、
さらには札幌には前に新宿店で融資したお客さんが長期延滞しているので、
訪問回収に行こうと思っているなどということをこづつけ、見事にその騒動を収めたというか、
うちがやることをごりおしさせたのだった。それにしても告げ口する札幌店も札幌店だし、
経費を考えず少額案件だろうが成績のためなら何でもやろうといううちの店長も店長だし、
営業成績をめぐる熾烈な争いがいよいよ本格化していることを思い知らされたのだった。

そんなわけで、せっかく札幌に出張でいけると内心楽しみにしていたのだが、清原さんが訪問回収をかねて、
僕の案件の物件調査と連帯保証人の申込もしてくれることになった。
最近、朝礼が終わると、高校野球を見にいくために「営業」と予定表に書いて真っ先に消える清原さんを店長が呼びとめ、
札幌出張話をもちかけたのだった。高校野球命の清原さんに、訪問回収があるとはいえ、
僕の案件の調査までお願いするとなると相当いやがるんじゃないかと思っていたが、清原さんは予想に反して大喜びだった。

「八木君、ありがとね。札幌に行く機会をくれて。もううれしくって仕方がないよ。
あそこには何回か出張で行ってるんだけどね、いいフーゾク店があるのよ。
早速明日行こうと思うから、八木君の案件の資料用意しておいて!」
「ありがとうございます。でも高校野球があるんじゃ…」
「訪問回収なんてすぐ終わるよ。もう1ヵ月以上も延滞してる客でね、先週あたりからまったく電話が通じなくなったからね、
ようはその場所にいって、逃げたのか居留守つかってるのかそれだけ確かめてくれば、仕事は終わったようなもんだしね」

「でも、僕の案件、結構面倒だと思いますよ。連帯保証人の申し込みと物件調査、
役所で納税証明書と法務局いって資料集めもしなくちゃいけないし」
「まあまあ、そんなもんてきとーにさっとやってね、昼間は高校野球。夜はおいしいもん食べた後、フーゾク。
翌日は寝坊してぶらぶら観光して直帰!もう最高だね」
なんでそんなに遊べる時間があるのかわからなかったが、
清原さんがうれしそうだったので頼みやすくてよかったなとだけ思ったのだが。

しかし清原さんは出張から帰ってくると書類の不備もなく、それでいてしっかり遊んできたようで、
うれしそうに僕に札幌での出来事を話してくれた。おかしいなあ。まともにこれだけの仕事をしていたら、
夜はともかくとしても昼は遊びにいっている時間はないはずなのに…。
そのわけを聞いて僕は清原さんは天才的だなと感心してしまった。

「まずね、八木君の案件は、らくしょーだったよ。まず、連帯保証人宅にいって、
申し込みと自宅の写真撮影でだいたい30分ぐらいね。市役所の納税証明書は、本人が時間があるっていうからね、
とってきてもらうことにしてね、私は近くの喫茶店で高校野球見ながら待ってたわけよ。
もし不備があったら私がいけばいいわけだしね。そんでもって法務局の登記簿謄本も本人にとってきてもらったわけ。
たださすがにお客さんは公図とか地積測量図とか建物図面は取り方わからないと思ったけどね、
どうせそんなもん、不動産鑑定士が鑑定のために取得するでしょ。
だったら私がまた同じもんを手間隙金かけて取る必要ないわけ。念のため鑑定士に聞いたら、
取得しますよっていうから大丈夫だなと思って。付近の不動産屋の聞き込みは1軒だけ電話でしてね、
見るからに問題ない普通の一戸建て物件だから、他に聞いても評価は変わらなそうだったらかね、
もうこれで終了でしょ。もうらくなもんよ」

すごい。さすが清原さん。手を抜いてはいるがしっかり取るべき書類はとっているしおさえるところはしっかりおさえている。
だからいつもあんなにさぼっていても成績がいいのだ。
「訪問回収は居留守だったわけよ。まさか東京からナルシンが来るとは思ってもみてなかったみたいでね、
昼間いったらすぐに出てきてね、ガンガンにいってうちの支払いから優先するように言ってきたから。
一応、今月分もそのまま一緒に銀行にいって振り込ませたしね。ただあいつはもうだめだな。
うちの不動産担保でサラ金をまとめたあと、またサラ金で5社250万ぐらいつまんじゃってるわけよ。
もうそんなに持たないと思うからね、不動産を手放して精算したららくになるよっていってきたけどね」
訪問回収の方もきっちりやってきている。しかもほとんど時間をかけずに。

「だから両方の仕事で半日ぐらいで終わっちゃったわけよ。はっきりいって日帰りでも十分なぐらいの仕事だったね。
でも普通にやったら1泊2日かかる仕事だからね、夜も翌日もたっぷり楽しませてもらったよ。
八木君、この案件で契約する時とか俺がいってあげるからね、また声かけてね」
やり方はともかくとしても、清原さんの仕事の要領の良さは見習うべきだなと感心したのだった。

申込本人がブラックリストに載っているという以外にまったく問題はなかった。
連帯保証人兼担保提供者となるお父さんは、サラ金の借りいれはまったくなし。警備員で月30万円の収入をもらっている。
それまでは地元の優良企業に30年間勤め上げていた。仕事一途のまじめなお父さんで、
定年退職後も仕事の熱心さをかわれて、関連会社の警備員という形で65歳まで勤めることになったのだった。
お父さんの申し分ない属性で返済能力はまったく問題なかった。

物件も十分だった。普通の一戸建てでまったく問題はない。評価も坪25万×30坪で750万円。
1番抵当で400万円なら掛け目53%で余裕案件だ。借りいれ本人は問題だらけだったが、
十分それをカバーしてあまりあるほどの内容だった。
借りいれ本人は申込をした時の印象はほんといかにもだらしなさそうな印象で、聞くとその印象とおりだった。
サラ金に手を出したのは生活費ではなく、娯楽費。ギャンブルと酒がその使い道のとほんど。
計画性もなく場あたり的に借りまくっていつのまにかこんなに借金がふくれてしまったのに、あまり危機感がない。
クレジットカードのキャッシング返済ができなくなったが、カード会社は督促が厳しくないので、
それをいいことにずっと放っておいたのだ。それが長期の延滞事故としてブラックリストに載ってしまった。

ブラックリストに載るまでにサラ金に借りまくったお金は、カード会社の支払いにあてることもなかった。
自転車操業すらする気もなく、借りた金を使うだけに費やしてきたのだった。
ブラックになって急にサラ金の支払いが厳しくなったことにやっと自分の置かれた立場に気づいたらしい。
もうこうなってお金を貸してくれるところは、電話ボックスなどにはってある「どんな人でもお金貸します!」
という違法まがいの町金しかない。それでMMMクレジットにいったらしい。
そこでMMMクレジットが本人を説得し、親の連帯保証と不動産を担保に入れれば、
今よりはるかに安い金利でとりまとめる方法があるという話をして、うちを紹介してくれたというわけだ。

早速審査部に稟議書を作成して提出したが、翌日なんなく決裁が下りた。
東京にいる借り入れ本人と北海道にいるお父さんとの契約もスムーズに終わり、すぐに融資実行となった。
佐藤金融以来、2番目の自分で開拓して見つけた業者からの紹介案件での成約で、
400万円という少ない金額ではあったがうれしくて仕方がなかった。
今後も案件を継続的に紹介してもらいたいと思い、今回の案件紹介の挨拶を兼ねて、MMMクレジットに挨拶に行くことにした。

MMMクレジットは新橋のペンシルビルにあり、2〜7階まですべてサラ金が入る、今流行りの「サラ金ビル」だ。
大手消費者金融5社が仲良くそろって3〜7階に入っていて、2階にMMMクレジットが入っていた。
確かこんなところも営業にいったような気がしないでもないが、やたらめったら飛び込みをしていたので、
どんなところだったかまったく印象に残ってはいなかった。融資実行の時に、媒介手数料を取りにきたのは、
案件を紹介してくれた片岡さんではなく若いお使いのような人だったので、片岡さんに会うのははじめてだった。
入ると、きんきらきんのアクセサリーや時計をあちこちに身に付け、グリーンのスーツを着た、
いかにも叩き上げの町金業者といわんばかりの50歳ぐらいのごつい男性がいた。それを見て、僕は一瞬ひるんだ。

「あ、ナルシンの八木さんですか?どうも、はじめまして。MMMクレジットの片岡です」
見た目とは違って腰の低い物腰にとまどいながらも、僕はなんだか狐につつまれたような気分で、しどろもどろに挨拶をした。
「今回は融資ありがとうございました。うちも儲けさせてもらって助かりました」
片岡さんはMMMクレジットがどんな会社なのかを説明しはじめた。
「うちは、大手消費者金融で借りれなくなったお客さんを対象に、
主に5〜100万円程度までの小口融資を専門にしている町金なんですよ。
大手で借りられなくなる理由は、今回のお客さんのようなブラックリストに載ってしまった人や、
大手で何社も借りまくってしまった人ですね。そういう債務者中心に営業をやってるわけです」
しかしそんな重症の債務者ばかりにお金を貸して大丈夫なのだろうか…。
「ようは、リスクが高い客に貸す分、大手とは違った強引な回収力と、
リスクヘッジのための高金利融資をすれば商売になるってわけですよ。それはどんな金融会社でも同じですよ。
銀行はリスクを負わないいいお客さんに金を貸す。その代わり回収力もたいしていらないし、低金利で融資できる。
それを裏返したのがわれわれ高利の町金というわけですよ」

MMMクレジットは貸金業登録している「正規」の業者ではあるが、
金利に関しては出資法の上限金利である40.004%を越える場合はざらだった。
「当たり前ですよ。40.004%なんか守ってたらとても貸せる客じゃないですよ。
リスクがあるから高金利を負担してもらう。違法?そんなの帳簿上でいくらでもごまかせますよ」
貸金業登録している正規の業者でも違法な金利をとることもあるんだ。MMMクレジットの片岡さんからいわせれば、
「ばれなきゃなにやったっていい社会なんですよ。だいたい日本の政治や官僚は、
そういう問題にまともに首なんかつっこみなくないわけですよ。
だから形式上法律とかで上限金利決めるぐらいのことはするけど、あとはしらんぷりですよ。
つまり日本っていうのはやりたい放題なんですよ。弱肉強食の世界。
それに違法だろうが高利だろうが、それでも金を借りたいってバカモノがこの世にいる限り、絶対金貸しなんかなくならないですよ」
と不敵な笑みを浮かべた。

「でもうちなんか、こうしてまだきちんと貸金業登録もし、事務所も構えているから、お客からは結構信頼されるんですよ。
金貸しなんてね、別に金さえあれば誰だってできる商売なんですよ。事務所もいらないし、登録なんかしなくっても、
たとえば友達に金貸したりはできるわけでしょう?ほんとの違法業者っていうのは、貸金業登録なんかしないし、
事務所も持たないし、携帯電話1つだけで商売してますよ。それを違法業者っていうんです。
そういう人たちの金利なんて計算しようないですよ。いわゆる昔でいう「トイチ」業者ですよね。
今はトイチなんて生優しい金利でやってるところは少ないと思いますけどね」

そっか。こんなことで驚いてはいけないんだ。所詮、僕が働いているナルシンは「サラ金」といったって、
わりにきちんとした大手企業なのだ。その下にはもっともっと闇の世界が底なしに広がっている。
うちのレベルなんかは債務者がはまっている借金という底なし沼のほんの入口にしか過ぎないのだろう。
ここですら借りれなかった人が、どんどん闇に沈んでいくのだから。

「うちは大手から何社も借りている人のリストとかブラックリストとかの名簿から集客してるわけです。
現金という餌をちらつかせればいくらでも客は釣れますよ。餌を食ったら最後、その奥にはとんでもない針があったとしてもね」
こんなところからお客さんを紹介してもらってもいいのだろうか?
そんな心配を察知したかのようにMMMクレジットの片岡さんは話を続けた。

「とはいえ、そういう客から回収するっていうのは、いくらうちが強引な回収力があるとはいえ、しんどいわけですよ。
それでね、今回みたいにナルシンさんのような大手サラ金が不動産担保ローンやってくれてると非常にありがたいわけです。
うちにきた時点でどうしようもない借金だらけのお客さんに、まずうちから小口で融資して客を逃げられないようにする。
すぐに支払いがきつくなるから、今回みたいに、不動産を持っている人で連帯保証人になってくれる人がいるなら、
それで借金まとめてもう一度人生やり直さないかっていってやるわけです。
それもうちのような町金の高金利で不動産担保ローン組みなおすんじゃなくって、サラ金大手のナルシンさんでねって。
不動産持ってて連帯保証人になってくれる人といったら、やっぱり親や兄弟しかいないわけですよ、基本的には。
ところが債務者っていうのは、友達とかに相談したりしても親兄弟には借金していることを内緒にしたがるから、
連帯保証や担保提供のお願いってなかなか話せないんですよ。でもね、そんな時に、うちから厳しい取りたてをして、
今置かれている現実を思い知らされてやれば、必死になって連帯保証人探し、不動産所有者探しをするわけです。
それでいい不動産いい保証人が見つかったらナルシンさんに紹介する。
そしたらうちとしては媒介手数料はもらえるは、貸した金の元金や高利も回収できるは、願ったりかなったりなんですよ。
これを機会にばんばん客紹介しますから、よろしくお願いしますよ、八木さん」

なるほど、そういうからくりでMMMクレジットのような町金がうちに紹介してくれるわけか…。
MMMクレジット自体は媒介を専門にやっているわけでもないし、不動産担保もやっていない。
今まで、主に営業でまわっていたのは、媒介業や不動産担保ローンをやっているところだった。
でもその2つをやっていなくても、単なる小口融資をしているところでも、こうして案件を紹介してくれる可能性があるのだ。
この調子でこれからもMMMクレジットのような小口専門融資の町金もどんどん営業でまわって案件をひっぱってくるぞと思った。

店長や岡田先輩も今回の融資については非常に僕を褒めてくれた。
それは佐藤金融に続く、またしても今まで紹介してもらっていた業者ではなく、新規業者からの紹介だったからだ。
新規業者の開拓については特に営業目標になっているわけではなかったが、新しい業者を開拓すれば、
それだけ営業の間口が広がり、店全体にとっても望ましいことで、非常に評価された。
誰もが新規業者の開拓の困難さを知っているからなおのことだ。

新宿店の新人は6000万円という超高額のまぐれあたりで、たまたま個人成績で2位になっただけじゃないかといった見方が、
本部や他店の一部にはあったのだが、新規業者開拓を2件続けてしたことが、たとえ今回の融資が400万円だったとしても、
「この新人、すごい営業力を持っているかもしれない」と徐々に評価されはじめたのだった。
それはいわゆる口がうまく話がうまい営業ということではなく、
新人だからまじめでひたむきに何件も件数を回っている成果が、徐々に現れはじめた結果だった。
そして、今後もこれだけにとどまることない快進撃が続くのであった。







つづく